おうとう
桜桃

冒頭文

われ、山にむかいて、目を挙(あ)ぐ。 ——詩篇、第百二十一。 子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。少くとも、私の家庭においては、そうである。まさか、自分が老人になってから、子供に助けられ、世話になろうなどという図々しい虫(むし)のよい下心は、まったく持ち合わせてはいないけれども

文字遣い

新字新仮名

初出

「世界」1948(昭和23)年5月

底本

  • 人間失格・桜桃
  • 角川文庫、角川書店
  • 1989(平成元)年4月10日