めいじんじょうずにきく
名人上手に聴く

冒頭文

もう三、四カ月も前であったと思うが、偶然の機会に、木村八段の将棋講座のラジオ放送を聞いた。飛車落ち定石(じょうせき)の説明のようであったが、私の聞いたのはその終わりの五、六分間である。木村八段はそこで、「上手(じょうず)に対して飛車落ち程度でさせるようになると、そろそろ定石を無視して自己流の差し方をするものであるが、それは厳重に慎まねばならぬ。よく人は、こちらがいくら定石通りに差そうと思っても、相

文字遣い

新字新仮名

初出

「鉄塔」1933(昭和8)年3月号

底本

  • 野呂栄太郎全集 下巻
  • 新日本出版社
  • 1994(平成6)年12月5日