ちはやかんのめいろ
千早館の迷路

冒頭文

1 やがて四月の声を聞こうというのに、寒さはきびしかった。夜が更けるにつれて胴慄(どうぶる)いが出て来たので、帆村荘六は客の話をしばらく中絶して貰って、裏庭までそだを取りに行った。 やがて彼は一抱えのそだを持って、この山荘風の応接室に戻って来た。しばらく使わなかった暖炉(だんろ)の鉄蓋をあけ、火かき棒を突込むと、酸っぱいような臭いがした。ぴしぴしとそだを折って中にさしこみ、それから

文字遣い

新字新仮名

初出

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

底本

  • 海野十三全集 第11巻 四次元漂流
  • 三一書房
  • 1988(昭和63)年12月15日