おさん
おさん

冒頭文

一 たましいの、抜けたひとのように、足音も無く玄関から出て行きます。私はお勝手で夕食の後仕末(あとしまつ)をしながら、すっとその気配を背中に感じ、お皿を取落すほど淋(さび)しく、思わず溜息(ためいき)をついて、すこし伸びあがってお勝手の格子窓(こうしまど)から外を見ますと、かぼちゃの蔓(つる)のうねりくねってからみついている生垣(いけがき)に沿った小路を夫が、洗いざらしの白浴衣(しろゆかた)

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1947(昭和22)年10月

底本

  • 太宰治全集9
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年5月30日