みきかんのともに
未帰還の友に

冒頭文

一 君が大学を出てそれから故郷の仙台の部隊に入営したのは、あれは太平洋戦争のはじまった翌年、昭和十七年の春ではなかったかしら。それから一年経(た)って、昭和十八年の早春に、アス五ジ ウエノツクという君からの電報を受け取った。 あれは、三月のはじめ頃ではなかったかしら。何せまだ、ひどく寒かった。僕は暗いうちから起きて、上野駅へ行き、改札口の前にうずくまって、君もいよいよ戦地へ行くことになった

文字遣い

新字新仮名

初出

「潮流」1946(昭和21)年5月

底本

  • 太宰治全集8
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年4月25日