からだ

冒頭文

四五日前に、善く人にじゃれつく可愛い犬ころを一匹くれて行った田町の吉兵衛と云う爺さんが、今夜もその犬の懐(なつ)き具合を見に来たらしい。疳癪の強そうな縁の爛(ただ)れ気味な赤い目をぱちぱち屡瞬(しばたた)きながら、獣の皮のように硬張(こわば)った手で時々目脂(やに)を拭いて、茶の間の端に坐っていた。長いあいだ色々の労働で鍛えて来たその躯は、小いなりに精悍らしく見えた。 上(かみ)さんが気

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本プロレタリア文学大系(序)
  • 三一書房
  • 1955(昭和30)年3月31日