シベリヤにちかく
シベリヤに近く

冒頭文

一 「うむ、それから」 と興に乗じた隊長は斜な陽を、刃疵(きず)のある片頬に浴びながら、あぶみを踏んで一膝のり出した。すると鞍を揉まれたので、勘違いして跳ね出そうとした乗馬に「ど、どとッ、畜生」と、手綱をしめておいて、隊長は含み笑いに淫猥な歯をむいて 「それから」 と、飽くまで追及して来た。 軍属の高村は、ひとあし踏み出して乱れた隊長の乗馬に、自分の馬首を追い縋っ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本プロレタリア文学集・10 「文芸戦線」作家集(一)
  • 新日本出版
  • 1985(昭和60)年11月25日