めがみ
女神

冒頭文

れいの、璽光尊(じこうそん)とかいうひとの騒ぎの、すこし前に、あれとやや似た事件が、私の身辺に於いても起った。 私は故郷の津軽で、約一年三箇月間、所謂(いわゆる)疎開(そかい)生活をして、そうして昨年の十一月に、また東京へ舞い戻って来て、久し振りで東京のさまざまの知人たちと旧交をあたためる事を得たわけであるが、細田氏の突然の来訪は、その中でも最も印象の深いものであった。 細田氏

文字遣い

新字新仮名

初出

「日本小説」1947(昭和22)年5月

底本

  • 太宰治全集9
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年5月30日