てんま
天馬

冒頭文

一 ある重苦しい雲の垂れこめた日の朝、京城での有名な廓(くるわ)、新町裏小路のとある娼家から、みすぼらしい風采の小説家玄竜がごみごみした路地へ、投げ出されるように出て来た。如何にも彼は弱ったというふうに暫く門前に佇(たたず)んで、一体どこから本町通りへ抜け出たものかと思案していたが、いきなりつかつかと前の方の小路へはいって行った。けれど界隈が界隈だけに、地に這うような軒並のいがみ合っている入

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

底本

  • 光の中に 金史良作品集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年4月10日