しゅんせつせん
浚渫船

冒頭文

私は行李を一つ担いでいた。 その行李の中には、死んだ人間の臓腑のように、「もう役に立たない」ものが、詰っていた。 ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まった、表紙と本文の半分以上取れた英訳本。坊主の除れたフランスのセーラーの被る毛糸帽子。印度の何とか称する貴族で、デッキパッセンジャーとして、アメリカに哲学を研究に行くと云う、青年に貰った、ゴンドラの形と

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸戦線」1926(大正15)年9月号

底本

  • 日本プロレタリア文学集・8 葉山嘉樹集
  • 新日本出版社
  • 1984(昭和59)年8月25日