きんしゅのこころ
禁酒の心

冒頭文

私は禁酒をしようと思っている。このごろの酒は、ひどく人間を卑屈にするようである。昔は、これに依(よ)って所謂(いわゆる)浩然之気(こうぜんのき)を養ったものだそうであるが、今は、ただ精神をあさはかにするばかりである。近来私は酒を憎むこと極度である。いやしくも、なすあるところの人物は、今日此際(このさい)、断じて酒杯を粉砕すべきである。 日頃酒を好む者、いかにその精神、吝嗇(りんしょく)卑

文字遣い

新字新仮名

初出

「現代文学」1943(昭和18)年1月

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(昭和64)年1月31日