かぜのたより
風の便り

冒頭文

拝啓。 突然にて、おゆるし下さい。私の名前を、ご存じでしょうか。聞いた事があるような名前だ、くらいには、ご存じの事と思います。十年一日の如く、まずしい小説ばかりを書いている男であります。と言っても、決して、ことさらに卑下(ひげ)しているわけではございません。私も、既に四十ちかくに成りますが、未だ一つも自身に納得の行くような、安心の作品を書いて居りませんし、また私には学問もないし、それに、

文字遣い

新字新仮名

初出

1942(昭和17)年4月

底本

  • 太宰治全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年12月1日