そうせきの「こうじん」について
漱石の「行人」について

冒頭文

「吾輩は猫である」が明治三十八年に書かれてから、「明暗」が未完成のままのこされた大正五年まで、十二年ほどの間に漱石の文学的活動は横溢した。円熟した内面生活の全幅がこの期間に披瀝されたと思う。同時に、作品のどれもが、人生と芸術とに向う態度、テーマなどの点で一定の成熟の段階にとどまっていて、局面の変化としてあらわれる扱いかたの多様さや突っこみかたがそれぞれの相貌を示しつつ本質の飛躍はなかったということ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1940(昭和15)年6月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十一巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年1月20日