かしょく
花燭

冒頭文

一 祝言(しゅうげん)の夜ふけ、新郎と新婦が将来のことを語り合っていたら、部屋の襖(ふすま)のそとでさらさら音がした。ぎょっとして、それから二人こわごわ這い出し、襖をそっとあけてみると、祝い物の島台(しまだい)に飾られてある伊勢海老(えび)が、まだ生きていて、大きな髭(ひげ)をゆるくうごかしていたのである。物音の正体を見とどけて、二人は顔を見合せ、それからほのぼの笑った。こんないい思い出を持

文字遣い

新字新仮名

初出

1939(昭和14)年5月

底本

  • 太宰治全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年9月27日