かんねんせいとじょじょうせい いとうせいし『まちとむら』について
観念性と抒情性 伊藤整氏『街と村』について

冒頭文

あるがままの姿は決して心理でもなければ諷刺でもない 伊藤整氏の近著『街と村』という小説集は、おなじ街や村と云っても、作者にとってはただの街や村の姿ではなく、それぞれに幽鬼の街、幽鬼の村である。これまでの自身の中途半端な人生のくらしかたが、その街においてもその村においても、いろいろの思い出とそこに登場して来る人物すべてを作者にとって幽鬼としてしまっている。その幽鬼たちが彼という存在との接触にお

文字遣い

新字新仮名

初出

「九州帝国大学新聞」1939(昭和14)年6月20日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十一巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年1月20日