はるかなみち 「くれない」について
はるかな道 「くれない」について

冒頭文

今わたしの机の上に二冊の本が置かれている。一冊は最近中央公論社から出版された窪川稲子の初めての長篇小説と云うべき「くれない」である。もう一冊は、これもごく近く白水社から出た「キュリー夫人伝」である。この二冊の本は、それぞれに違ったものである。左方は名の示すように、世界の科学に大なる貢献をした婦人科学者の伝記であるし、一方は日本の婦人作家によって書かれた一つの小説である。だが、この種類のちがう二冊の

文字遣い

新字新仮名

初出

「法政大学新聞」1938(昭和13)年11月20日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十一巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年1月20日