いっとう
一灯

冒頭文

芸術家というものは、つくづく困った種族である。鳥籠(とりかご)一つを、必死にかかえて、うろうろしている。その鳥籠を取りあげられたら、彼は舌を噛(か)んで死ぬだろう。なるべくなら、取りあげないで、ほしいのである。 誰だって、それは、考えている。何とかして、明るく生きたいと精一ぱいに努めている。昔から、芸術の一等品というものは、つねに世の人に希望を与え、怺(こら)えて生きて行く力を貸してくれ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸世紀」1940(昭和15)年11月

底本

  • 太宰治全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年10月25日