あたらしきシベリアをよこぎる
新しきシベリアを横切る

冒頭文

十月二十五日。(一九三〇年) いよいよモスクワ出立、出立、出発! 朝郵便局へお百度を踏んだ。あまり度々書留小包の窓口へ、見まがうかたなき日本の顔を差し出すので、黄色いボヤボヤの髪をした女局員が少しおこった声で、 ——もうあなたを朝っから二十遍も見るじゃありませんか! と云った。 ——ご免なさい。だが私はこの我らのモスクワに三年いたんですよ。そして、今夜帰る

文字遣い

新字新仮名

初出

「女人芸術」1931(昭和6)年1月、2月号

底本

  • 宮本百合子全集 第九巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年9月20日