とかいちずのぼうちょう
都会地図の膨脹

冒頭文

序景 窓は広い麦畠の、濃緑の波に向けて開け放されていた。擽るような五月の軟風が咽せかえるばかりの草いきれを孕んで来て、かるく、白木綿の窓帷(カーテン)を動かしていた。 南面の窓に並んで、鉄筋混凝土(コンクリート)の上層建築が半分ほど出来あがっていた。その上に組まれた二本の大きな起重機は、艶消電球のような薄曇りの空から、長い鉄骨の手を伸して、青い麦畠やそのまわりの小さな建物を掴みあげ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本プロレタリア文学集・11 「文芸戦線」作家集(二)
  • 新日本出版社
  • 1985(昭和60)年3月25日