めいしょうちたい
名勝地帯

冒頭文

そこは、南に富士山を背負い、北に湖水をひかえた名勝地帯だった。海抜、二千六百尺。湖の中に島があった。 見物客が、ドライブしてやって来る。何とか男爵別荘、何々の宮家別邸、缶詰に石ころを入れた有名な奴の別荘などが湖畔に建っていた。 小川米吉は、そこへ便所を建てた。便所は屋根が板屋根で新しかった。「駐在所の且那が、おめえに、一寸、来いってよオ。」女房が、笹を伐りに行っていた米吉に帰る

文字遣い

新字新仮名

初出

「大衆の友」1932年3月号

底本

  • 日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集(七)
  • 新日本出版社
  • 1985(昭和60)年3月25日