おさいのないべんとう
お菜のない弁当

冒頭文

誰でもその口実をはっきり知っていた。——それは五月十六日の朝からなのだ。その前の日は、犬養総理大臣が白昼公然と官邸で射殺された。でかでかと新聞に書かれたこの大事件によって、少しは景気の盛りかえす世の中が来るかも知れないと漠然と思い、そのことについて大いに談じ合う予算(つもり)で工場に駈けつけたのだが、職工達は「おっとどっこい」——と許り門のところで堰き止められた。見るとひどく栄養のいい憲兵が長いサ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集7
  • 新日本出版社
  • 1985(昭和60)年3月25日