ぜんや |
| 前夜 |
冒頭文
音のしないように板戸を開けた、親爺は煙管を横ぐわえにしてじろっと此方を見た。夜目にもその目が血走っていた、清二は腫物にさわるような思いで地下足袋を脱ぎ、井戸端に行ってゆっくり足を洗った。掘抜井戸の水が脚に流れ落ち砕けていた。 馬小屋で、馬が鼻をならし乍ら頻りにあがいた、首を上げると庭先を自転車が辷り込んで来た。村瀬だった。 「どうでえ?」と彼はひどくうれしそうな声で云った。「出征兵士遺族の畑
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集7
- 新日本出版社
- 1985(昭和60)年3月25日