ごくらく
極楽

冒頭文

京師室町姉小路下る染物悉皆商近江屋宗兵衛の老母おかんは、文化二年二月二十三日六十六歳を一期として、卒中の気味で突然物故した。穏やかな安らかな往生であった。配偶の先代宗兵衛に死別れてから、おかんは一日も早く、往生の本懐を遂ぐる日を待って居たと云ってもよかった。先祖代々からの堅い門徒で、往生の一義に於ては、若い時からしっかりとした安心を懐いて居た。殊に配偶に別れてからは、日も夜も足りないようにお西様へ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛文學全集 第三巻
  • 文藝春秋新社
  • 1960(昭和35)年5月20日