はるのとうぞく
春の盗賊

冒頭文

——わが獄中吟。 あまり期待してお読みになると、私は困るのである。これは、そんなに面白い物語で無いかも知れない。どろぼうに就(つ)いての物語には、違いないのだけれど、名の有る大どろぼうの生涯を書き記すわけでは無い。私一個の貧しい経験談に過ぎぬのである。まさか、私がどろぼうを働いたというのではない。私は五年まえに病気をして、そのとき、ほうぼうの友人たちに怪しい手紙を出してお金を借り、それが積り積っ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸日本」1940(昭和15)年1月

底本

  • 太宰治全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年10月25日