はるのやりからかえって
春の槍から帰って

冒頭文

白馬、常念、蝶の真白い山々を背負った穂高村にも春が一ぱいにやってきた。あんずの花が目覚めるように咲いた百姓屋の背景に、白馬岳の姿が薄雲の中に、高くそびえて、雪が日に輝いて谷の陰影が胸のすくほど気持ちよく拝める。 乾いた田圃には、鶏の一群が餌をあさっている。水車の音と籾(もみ)をひく臼の音が春の空気に閉ざされて、平和な気分がいたるところに漲(みなぎ)っていた。 一歩を踏み出して烏

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 山と雪の日記
  • 中公文庫、中央公論社
  • 1977(昭和52)年4月10日