モスクワいんしょうき
モスクワ印象記

冒頭文

トゥウェルスカヤの大通を左へ入る。かどの中央出版所にはトルキスタン文字の出版広告がはりだされ、午後は、飾窓に通行人がたかって人間と猫の内臓模型をあかず眺める。緑色の円い韃靼(だったん)帽をかぶった辻待ち橇の馭者が、その人だかりを白髯のなかからながめている。 中央電信局の建築が、ほとんどできあがった。材料置場の小舎を雪がおおっている。トタンの番小屋のきのこ屋根も白くこおっている。 —

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1928(昭和3)年8月号

底本

  • 宮本百合子全集 第九巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年9月20日