はなび
花火

冒頭文

昭和のはじめ、東京の一家庭に起った異常な事件である。四谷(よつや)区某町某番地に、鶴見仙之助というやや高名の洋画家がいた。その頃すでに五十歳を越えていた。東京の医者の子であったが、若い頃フランスに渡り、ルノアルという巨匠に師事して洋画を学び、帰朝して日本の画壇に於いて、かなりの地位を得る事が出来た。夫人は陸奥(むつ)の産である。教育者の家に生れて、父が転任を命じられる度毎に、一家も共に移転して諸方

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1942(昭和17)年10月

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(昭和64)年1月31日