ぎゃっこう
逆行

冒頭文

蝶蝶 老人ではなかった。二十五歳を越しただけであった。けれどもやはり老人であった。ふつうの人の一年一年を、この老人はたっぷり三倍三倍にして暮したのである。二度、自殺をし損った。そのうちの一度は情死であった。三度、留置場にぶちこまれた。思想の罪人としてであった。ついに一篇も売れなかったけれど、百篇にあまる小説を書いた。しかし、それはいずれもこの老人の本気でした仕業ではなかった。謂(い)わば

文字遣い

新字新仮名

初出

蝶蝶、決闘、くろんぼ「文藝」1935(昭和10)年2月号、盗賊「帝國大学新聞」1935(昭和10)年10月7日

底本

  • 晩年
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1947(昭和22)年12月10日、1985(昭和60)年10月5日70刷改版