こだま
木精

冒頭文

巌(いわ)が屏風(びょうぶ)のように立っている。登山をする人が、始めて深山薄雪草(みやまうすゆきそう)の白い花を見付けて喜ぶのは、ここの谷間である。フランツはいつもここへ来てハルロオと呼ぶ。 麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら羅馬(ロオマ)法皇の宮廷へでも生捕(いけど)られて行きそうな高音でハルロオと呼ぶのである。 呼んでしまってじいっとして待っている。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 森鴎外全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1995(平成7)年7月24日