かきおきについて
遺書に就て

冒頭文

1 その朝、洋画家葛飾龍造の画室の中で、同居人の洋画家小野潤平が死んでいた。 コルク張りの床に俯伏せに倒れて、硬直した右手にピストルを握り、血の流れている右の顳顬(こめかみ)には煙硝の吹いた跡がある。 恰度葛飾は昨夜から不在で、それを最初に発見したのは葛飾の妻の美代子である。 『昨夜十時頃小野さんは街から帰って来ました。わたくしはもう寝床に入っていましたし、小野

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1929(昭和4)年5月

底本

  • アンドロギュノスの裔
  • 薔薇十字社
  • 1970(昭和45)年9月1日