ああかぞくさまだよ とわたしはうそをつくのであった
ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった

冒頭文

居留地女の間では その晩、私は隣室のアレキサンダー君に案内されて、始めて横浜へ遊びに出かけた。 アレキサンダー君は、そんな遊び場所に就いてなら、日本人の私なんぞよりも、遙かに詳かに心得ていた。 アレキサンダー君は、その自ら名告るところに依れば、旧露国帝室付舞踏師で、革命後上海から日本へ渡って来たのだが、踊を以て生業とすることが出来なくなって、今では銀座裏の、西洋料理店

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談雑誌」1929(昭和4)年4月

底本

  • アンドロギュノスの裔
  • 薔薇十字社
  • 1970(昭和45)年9月1日