ふくそうについて
服装に就いて

冒頭文

ほんの一時ひそかに凝(こ)った事がある。服装に凝ったのである。弘前(ひろさき)高等学校一年生の時である。縞(しま)の着物に角帯をしめて歩いたものである。そして義太夫(ぎだゆう)を習いに、女師匠のもとへ通ったのである。けれどもそれは、ほんの一年間だけの狂態であった。私は、そんな服装を、憤怒を以(もっ)てかなぐり捨てた。別段、高邁(こうまい)な動機からでもなかった。私が、その一年生の冬季休暇に、東京へ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1941(昭和16)年2月

底本

  • 太宰治全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年12月1日