とのそとまで
戸の外まで

冒頭文

自室から出ましてね、廊下の向うの隅に腰を掛けて車丁に、 『わたしは巴里へ行くのよ。』 と云ひました。 『ええ、奥様。』 と笑ひながら頤の先に髯のある車丁は笑つてましたよ。一昨日までの露西亜人、今朝迄の独逸人とは比べものにならないやうな優しい車丁ですよ。四時に巴里へ着くことに決つて居ても、巴里が終点であることが解つて居てもやつぱしね、すうと巴里を抜け通つてしまつて、地中海の海

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 我等
  • 我等発行所
  • 1914(大正3)年1月号