にっきのうち
日記のうち

冒頭文

十一月十三日 きゆうきゆうと云ふ音が彼方でも此方でもして、何処の寝台ももう畳まれて居るらしいので、わたしも起きないでは悪いやうな気がして蒲団の上に坐つた。けれどまだ実際窓の外は薄暗さうである。富士が見えるかも知れぬと思ふが窓掛を引く気にもならない。身繕ひをして下駄を穿きながら、ボーイに心附けを遣らないでおけば物を云ふ世話がなからうなどと考へて居た。洗面所に入つて髪を結つて来た間に上の寝台もし

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 早稲田文学
  • 早稲田文学社
  • 1912(明治45)年1月号