ちずをながめて
地図をながめて

冒頭文

「当世物は尽くし」で「安いもの」を列挙するとしたら、その筆頭にあげられるべきものの一つは陸地測量部の地図、中でも五万分一地形図などであろう。一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金銭に換算することのできないほど貴重なものである。今かりにどれかの一枚を絶版にして、天下に撒布(さんぷ)されたあらゆる標本を回収しそのただ一枚だけを残して他はことごとく焼いてしま

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京朝日」1934(昭和9)年10月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第五巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年11月20日、1963(昭和38)年6月16日第20刷改版