しとかんのう
詩と官能

冒頭文

一 清楚(せいそ)な感じのする食堂で窓から降りそそぐ正午の空の光を浴びながらひとり静かに食事をして最後にサーヴされたコーヒーに砂糖をそっと入れ、さじでゆるやかにかき交ぜておいて一口だけすする。それから上着の右のかくしから一本煙草(たばこ)を出して軽くくわえる。それからチョッキのかくしからライターをぬき出して顔の正面の「明視の距離」に持って来ておいてパチリと火ぶたを切る。すると小さな炎が明るい

文字遣い

新字新仮名

初出

「渋柿」1935(昭和10)年2月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第五巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年11月20日、1963(昭和38)年6月16日第20刷改版