えいがざっかん(よん)
映画雑感(Ⅳ)

冒頭文

一 商船テナシティ このジュリアン・デュヴィヴィエの映画は近ごろ見たうちでは最もよいと思ったものの一つである。何よりも、フランス映画らしい、あくの抜けたさわやかさが自分の嗜好(しこう)に訴えて来る。 汽車でアーヴルに着いてすっかり港町の気分に包まれる、あの場面のいろいろな音色をもった汽笛の音、起重機の鎖の音などの配列が実によくできていて、ほんとうに波止場(はとば)に寄せる潮のにおい

文字遣い

新字新仮名

初出

「セルパン」他、1935(昭和10)年2~6月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第五巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年11月20日、1963(昭和38)年6月16日第20刷改版