ふじだなのかげから
藤棚の陰から

冒頭文

一 若葉のかおるある日の午後、子供らと明治神宮外苑(めいじじんぐうがいえん)をドライヴしていた。ナンジャモンジャの木はどこだろうという話が出た。昔の練兵場時代、鳥人スミスが宙返り飛行をやって見せたころにはきわめて顕著な孤立した存在であったこの木が、今ではちょっとどこにあるか見当がつかなくなっている。こんな話をしながら徐行していると、車窓の外を通りかかった二三人の学生が大きな声で話をしている。

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1934(昭和9)年9月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第四巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年5月16日第20刷改版