だんがいのさっかく
断崖の錯覚

冒頭文

一 その頃の私は、大作家になりたくて、大作家になるためには、たとえどのようなつらい修業でも、またどのような大きい犠牲でも、それを忍びおおせなくてはならぬと決心していた。大作家になるには、筆の修業よりも、人間としての修業をまずして置かなくてはかなうまい、と私は考えた。恋愛はもとより、ひとの細君を盗むことや、一夜で百円もの遊びをすることや、牢屋へはいることや、それから株を買って千円もうけたり、一

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(昭和64)年6月27日