だんがいのさっかく |
| 断崖の錯覚 |
冒頭文
一 その頃の私は、大作家になりたくて、大作家になるためには、たとえどのようなつらい修業でも、またどのような大きい犠牲でも、それを忍びおおせなくてはならぬと決心していた。大作家になるには、筆の修業よりも、人間としての修業をまずして置かなくてはかなうまい、と私は考えた。恋愛はもとより、ひとの細君を盗むことや、一夜で百円もの遊びをすることや、牢屋へはいることや、それから株を買って千円もうけたり、一万円
文字遣い
新字新仮名
初出
「文化公論 第四巻第四号」1934(昭和9)年4月1日
底本
- 太宰治全集10
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1989(平成元)年6月27日