くつかけより
沓掛より

冒頭文

一 草をのぞく 浅間火山(あさまかざん)のすそ野にある高原の一隅(いちぐう)に、はなはだ謙遜(けんそん)なHという温泉場がある。ふとした機縁からそこでこの夏のうちの二週間を過ごした。 避暑という、だれもする年中行事をかつてしたことのなかった自分には、この二週日の間に接した高原の夏の自然界は実に珍しいものばかりであった。その中でもこの地方のやや高山がかった植物界は、南国の海べに近く生

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1933(昭和8)年10月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第四巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年5月16日第20刷改版