おんがくてきえいがとしての「ラヴ・ミ・トゥナイト」
音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」

冒頭文

この音楽的映画の序曲は「パリのめざめ」の表題楽で始まる。まず夜明けのセーヌの川岸が現われる。人通りはなくて朝霧にぬれたベンチが横たわり、遠くにノートルダームの双生塔がぼんやり見える。眠りのまださめぬ裏町へだれか一人自転車を乗り込んで来て、舗道の上になんだか棒のようなものを投げ出す。その音で長い一夜の沈黙が破られる。この音からつるはしのようなもので薪(まき)を割る男が呼び出される。軒下に眠るルンペン

文字遣い

新字新仮名

初出

「キネマ旬報」1932(昭和7)年1月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第三巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年4月16日第20刷改版