いけるにんぎょう
生ける人形

冒頭文

四十年ほど昔の話である。郷里の田舎(いなか)に亀(かめ)さんという十歳ぐらいの男の子があった。それが生まれてはじめて芝居というものを見せられたあとで、だれかからその演劇の第一印象をきかれた時に亀さんはこう答えた。「妙なばんばが出て来て、妙なじんまをずいて、ずいてずきすえた」これを翻訳すると「変な老婆が登場して、変な老爺(ろうや)をしかり飛ばした」というのである。その芝居の下手(へた)さが想像される

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京朝日」1932(昭和7)年6月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第三巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年4月16日第20刷改版