にじゅうよねんまえ
二十四年前

冒頭文

ちょうど今から二十四年前の夏休みに、ただ一度ケーベルさんに会って話をした記憶がある。ほんとうに夢のような記憶である。 それは私が大学の一年から二年に移るときの夏休みであった。その年の春から私は西片町(にしかたまち)に小さな家を借りてそこに自分の家庭というものを作った。それでいつもはきまって帰省する暑中休暇をその年はじめてどこへも行かずにずっと東京で暮らす事になった。長い休暇の所在なさを紛

文字遣い

新字新仮名

初出

「思想」1923(大正12)年8月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第二巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1947(昭和22)年9月10日、1964(昭和39)年1月16日第22刷改版