たま

冒頭文

丁度夏に向つてる、すべての新鮮な若葉とおなじやうに、多緒子(たをこ)の産んだ赤ん坊は生き〳〵と心よく康(すこ)やかに育つた。そしてそれと同時に産後思はしくなかつた彼女の肉體も恢復して來ると、ながい間産前から産後、そしていまもなほ引つゞいてゐる、いろ〳〵涙ぐましい堪へがたいなやみも、忙しい雜事の爲めにとりまぎれて、思ひつめる事も少なくなつた。 多緒子は産後思はしくなかつたけれども、彼女の若

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文章世界」1917(大正6)年8月号

底本

  • 青白き夢
  • 新潮社
  • 1918(大正7)年3月15日