ひぐちいちよう
樋口一葉

冒頭文

一 秋にさそわれて散る木の葉は、いつとてかぎりないほど多い。ことに霜月は秋の末、落葉も深かろう道理である。私がここに書こうとする小伝の主一葉(いちよう)女史も、病葉(わくらば)が、霜の傷(いた)みに得(え)堪(たえ)ぬように散った、世に惜まれる女(ひと)である。明治二十九年十一月二十三日午前に、この一代の天才は二十五歳のほんに短い、人世の半(なかば)にようやく達したばかりで逝(い)ってしまっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人画報」1918(大正7)年6~8、10月

底本

  • 新編 近代美人伝 (上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年11月18日