かいすいよく
海水浴

冒頭文

明治十四年の夏、当時名古屋鎮台につとめていた父に連れられて知多(ちた)郡の海岸の大野とかいうところへ「塩湯治(しおとうじ)」に行った。そのとき数え年の四歳であったはずだから、ほとんど何事も記憶らしい記憶は残っていないのであるが、しかし自分の幼時の体験のうちで不思議にも今日まで鮮明な印象として残っているごく少数の画像の断片のようなものを一枚一枚めくって行くと、その中に、多分この塩湯治の時のものだろう

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1935(昭和10)年8月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日