きょうどてきみかく
郷土的味覚

冒頭文

日常の環境の中であまりにわれわれに近く親しいために、かえってその存在の価値を意識しなかったようなものが、ひとたびその環境を離れ見失った時になって、最も強くわれわれの追憶を刺戟することがしばしばある。それで郷里に居た時には少しも珍しくもなんともなかったものが、郷里を離れて他国に移り住んでからはかえって最も珍しくなつかしいものになる。そういう例は色々ある中にも最も手近なところで若干の食物が数えられる。

文字遣い

新字新仮名

初出

「郷土読本」1932(昭和7)年2月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日