びょういんふうけい
病院風景

冒頭文

東京××大学医学部附属病院、整形外科病室第N号室。薄暗い廊下のドアを開けて、室へはいると世の中が明るい。南向きの高い四つの窓から、東京の空の光がいっぱいに流れ込む。やや煤(すす)けた白い壁。婦人雑誌の巻頭挿画らしい色刷の絵が一枚貼ってある。ベッドが八つ。それがいろいろ様式がちがう。窓の下に一列のスチームヒーター。色々の手拭やタオルの洗濯したのがその上に干し並べてある。それらがみんな吸えるだけの熱量

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学青年」1933(昭和8)年

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日