ふたつのしょうがつ
二つの正月

冒頭文

九州の武雄温泉(たけおおんせん)で迎えた明治三十年の正月と南欧のナポリで遭った明治四十三年の正月とこの二つの旅中の正月の記憶がどういう訳か私の頭の中で不思議な聯想の糸につながれて仕舞い込まれている。一方を思い出すと必ず他方がくっついて一緒に出て来るのである。 熊本高等学校に入学した年の冬の休みに長崎から佐世保(させぼ)へかけての見学をした。熊本から百貫(ひゃっかん)まで歩いて夜船で長崎へ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1930(昭和5)年2月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日