もりのえ
森の絵

冒頭文

暖かい縁(えん)に背を丸くして横になる。小枝の先に散り残った枯れ〳〵の紅葉が目に見えぬ風にふるえ、時に蠅のような小さい虫が小春の日光を浴びて垣根の日陰を斜めに閃く。眩しくなった眼を室内へ移して鴨居(かもい)を見ると、ここにも初冬の「森の絵」の額(がく)が薄ら寒く懸っている。 中景の右の方は樫(かし)か何かの森で、灰色をした逞(たくま)しい大きな幹はスクスクと立ち並んで次第に暗い奥の方へつ

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1907(明治40)年1月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日